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ゴウカク編_第3章_まっすぐ

生徒と真剣にぶつかる時間が最高の幸せだ。などと言う教師がいる。
彼らとは一生相容れないだろう。

僕には苦手な生徒がいる。
思うに、僕と同じような教師は少なくないのではないだろうか。

しかし、今日ばかりはそうはいかない。伝えなければいけない。進路を変えるべきだと。
職員室の横にあるちょっとした談話スペースで待っていると、いつも通りの明るい声でその生徒はやってきた。

「お待たせしましたー。先生どしたの?」
「この間話してたのが聞こえてな。進路について聞きたい事があるんだ。」

今日も、「高校教師 ゴウカク」の仮面がよく馴染む。大丈夫、いつも通り、いつも通り。
今朝も同じ朝食を食べ、同じように家を出てきた。今日だって何も変わらない日常の一コマのはずだ。

「東大に行くのか?」
「先生聞いてたんだ。うん。頑張りたいと思ってるよ。」

その一言目を聞いて、正直ホッとした。本気の人間はこんな言い回しはしない。
言葉に嘘はないのだろうが、東大を目指すという事がどういう事かわかっていない。

「『行きたい』で行ける学校じゃない。本気じゃないなら、志望校は下げるべきだ。」
「俺には無理だって言いたいんですか?」

生徒の顔から笑顔が消えた。真意を探るかのようにまっすぐ僕の目を見つめる。

「そういう事じゃない。ただ余りにも無謀だと言ってるんだ。」
「でも、挑戦してみたいんです。」
「大学受験が一人で挑むものだと思ったら大間違いだぞ。東大を目指すなら周りの人間のサポートが必要になる。多くの人がお前のためにたくさんの時間とお金を掛ける事になる。それを背負うだけの覚悟がお前にあるのか。」
「あります。」

こういうところなのだ。
本人は本気だ。嘘をついているわけでも見栄を張っているわけでもない。

「…今の質問に即答できるようなら、やはり君はまだ解ってないと思うよ。」
「どういう事ですか?」
「君はまだ知らない事が多すぎる。無知からくる無謀と、信念の通った覚悟は違う。はっきり言って、今の君に東大は厳しい。」

これ以上食い下がるようなら、この生徒にもう可能性はないだろう。
今のが僕からの最後通告だ。

「わかりました。」

生徒の視線は僕の目をとらえて動かない。諦めたわけでも、ふてくされたわけでもない。
彼は、いともたやすく僕の言葉を飲み込んだ。

「確かに俺、東大について何にも知らないし、何もしてません。自分は何がしたいのか、もう一度考えてみます。」

彼はどこまでもまっすぐだった。
ああ、やはり僕は彼が苦手だ。

「真剣に考えて、それでも東大目指す事にして、本気で取り組んで、でもどうしようもない壁にぶつかったら、その時はよろしくお願いします。」

ぺこり、と頭を下げ、その生徒は去っていった。
もしかしたら、彼とはまたこうして話をする機会があるかもしれない。
それが良い予感か悪い予感か、今の僕には判断がつかない。

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どんな困難にも前向きに取り組む事が出来る本当の意味での強い人になってほしいと、SIEGは願っています。

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