家を飛び出した。自転車のカバーを外し、隣においてある母親の自転車のかごにそれをぐしゃぐしゃに丸めて突っ込んだ。
帰ったら確実に怒られるが今は何せ急いでいる。背に腹は代えられない。
腕に抱えた練習着が入った袋とバスケットシューズをリュックに押し込み、背負いなおした。
学校まで片道40分。自慢の愛馬「赤兎馬2号」(赤いママチャリ)を走らせる。袖をまくったシャツが風になびく。
季節の移ろいはいつでも思ったよりも早い。もう朝でも少し動くと汗をかく。
初夏、来月は先輩たちの夏のインターハイだ。否が応にも気合が入る。さらにペダルに力を込めた。
ガラガラと体育館の扉を開けた。誰もいない。今日も一番乗りだ。いつも通り体育館の舞台袖にあるスイッチを押してバスケットゴールを出し、モップ掛けをした。その他諸々の準備をしていると、ぞろぞろと部員たちが体育館に入ってきた。
「遅いぞ!」
したり顔で同期や後輩に声をかける。いつも通り。あいさつ代わりだ。
「代わります!」
後輩たちが駆けてくる。
「ああ頼む。ちょっと着替えてくるな。」
「お前早すぎだろ」
同期で同じクラスの財津が話しかけてきた。
「ああ。もうすぐインハイだろ?楽しみだしな。先輩たちの引退試合だし。なぁ、お前も明日から早く来いよ!」
「あのな、準備なんて後輩がやればいいんだよ。だからさっきのタイミングくらいで入ってくるのがいいの。そんなことより今日、英語の小テストだぞ。やったのか?」
「嘘だろ?いつ言ってたんだよ!」
「いや毎週あるやつだし、黒板にも書いてあっただろ。」
「まぁ、もういいでしょう!」
「今日も最低記録更新か?楽しみにしてるよ。」
朝練が終わり、教室につき、早弁をし、仮眠して、先生が小テストを配り、自己採点して提出し、クラスのみんなに点数を聞かれたときには、僕の顔は赤兎馬2号のように真っ赤になっていた。