この扉の向こうに、魔王ジュケーンがいる。
心臓の音が大きくなり、他の音が消えていくのを感じた。
剣に結びつけられたお守りが小さく揺れる。
「顔を上げろ。ゴウカク。」
師匠の言葉にハッとする。
「大丈夫だ。魔王配下のキマツもモシも倒してきたじゃないか。お前なら勝てるよ。」
「…うん。行ってくる。」
寸刻扉を見つめた後、扉に当てた両手にゆっくりと体重をかけた。錆びた蝶番が鈍い音を立てて回る。
視線の先には、魔王ジュケーンが玉座についていた。
「よく来たな勇者よ。しかしモシごときに苦戦したお前に何ができるというのだ。」
「あの時とは違う!今なら、お前にだって勝てる!」
魔王ジュケーンは余裕の笑みで右手から数学を放った。
ゴウカクの剣が数学を切り裂く。
「前と違うのは嘘ではないようだ。しかし進化したのはお前だけではない!」
魔王の両手が光った。今度は英語リスニングと英語ライティングが同時に迫り来る。
「そのくらい予測済みだ!長文が多いことも!」
切り裂かれた二つの光弾は爆音とともに激しく光る。
ジュケーンの頬に冷や汗が流れた。
ありったけの科目を連続で放つも、ゴウカクは止まらない。
「終わりだ!ジュケーーン!!」
ゴウカクの剣が魔王ジュケーンを切り裂いた。
魔王の体が光となり、指先から消えていく。
「まさかお前の偏差値がここまで上がっていようとは…」
「ずっと、お前に勝ちたかったから。」
「私が消えても、魔王ジュケーンは必ず復活する。お前の努力など自己満足に過ぎない。」
「そうかもな。」
ゴウカクは踵を返し、魔王城を後にした。
「おめでとう!」
村に帰ると、みんなが笑顔で祝福してくれた。家族も、師匠も。ああ、とっくの昔に、この戦いは自分だけのものではなかったんだ。
「お、おめでとう、ございます…」
少年がおずおずと前に出てきて言った。
「君、名前は?」
「伸一…」
「そうか伸一。次は、君の番かもな。」
ゴウカクが伸一の頭を撫でる。
伸一は、小さく笑った。