絵馬編_第1章_ブルー

赤くかじかんだ指先にはぁっと息をふきかける。頬を撫でる冷たい風は私に冬の訪れを感じさせる。境内を赤く染め上げていたもみじはすっかり姿を失い、地面にてんてんと散らばっていた。

ここ、鶯神社はこの地域唯一の神社でありながら私の実家でもある。そのため、学校へ行く前に境内の掃除をすることは私の朝の日課となっていた。

神社の娘として生まれた私は、祖母に人に希望を与える存在になってほしいとの想いから「絵馬」と名付けられた。如何にも神社の娘という感じがして嫌だと父は反対していたそうだが、私はけっこう気に入っている。

 

朝の日課が終わると、テーブルの上にずらっと並べられた朝食を食べる。朝から一汁三菜が取り入れられた見た目も美しい食事を見ると、私も母のようになれるだろうかと将来の不安に悩まされる。

「絵馬、早く食べなさい。今日は期末テストでしょう?」

母の言葉で我に返る。そうだ。まずは目の前の事に集中しないと。

返事をせずにうつむくままの私に母は続ける。

「あなたには私立高校に行って貰うんですからね。中学2年生の今、内申点がどれだけ重要か分かっているでしょう?」

「はい…。」

 

母に決められたレールの上を歩く。これで失敗をしたことは今まで無かった。

幼い頃から茶道や華道、日本舞踊に書道など多くの事ができるようにと教育されてきた。初めは楽しかった。「出来ない事」が「出来る事」に変わる瞬間、自分の新しい可能性を見つけられた気がした。

ただ、ふとした時に感じてしまう。どうしようもない息苦しさ。

与えられたことを淡々とこなす度、「私」を見失いそうになる。私は何をして、どんな風になりたいのかが分からなくなる。

そんなあいまいな自分が好きではなくて、いつも自分に自信が持てない。

「溜息つかない!だらしないわよ。」

大きな溜息をつきながら食べ終わった食器を運ぶ私に母の叱責が飛ぶ。

朝から叱られ、自分が嫌になり、すっかり沈み込んだ私の心は全く戻ってくる気配がない。

 

学校に向かうため準備を済ませ、重い足取りで玄関のドアを開ける。

開けたドアの隙間から入る冷たい空気がまるで私を拒んでいるように感じた。

 

「青い。」

外に出て、ふいに見上げたその空は私の心とは裏腹に

一面コバルトブルーの青空だった。

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生徒の学習状況を把握しながら進める「双方向型」の授業スタイルです。授業内容を一方的に伝える受け身の授業は、理解度やスピードの点から考えても能動的授業に劣ります。出来るところはどんどん先に進み、分からないところは質問をして解決する。対面授業でもオンライン授業でも、生徒の顔や様子、学習状況を把握しながら授業を進めていきます。勉強本来の楽しさを伝え、自ら進んで勉強することを可能にしてしまうのが、ジークです。
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